コロナ禍後の世界戦略を研究せよ――日本に問われる敵味方識別能力と自立への覚悟
2020年5月19日の産経新聞に掲載された元駐米大使・加藤良三氏の論文を紹介し、コロナ禍後の国際社会における国防・安全保障、尖閣周辺での中国の動向、グローバル化の揺り戻し、敵味方識別能力、日本の自立度向上、そして日米同盟を軸にした戦略研究の必要性を論じる。
2020-05-19
一方、情け容赦のない国際社会の現実は、国の行政を預かる責任者・関係者が、国防・安全保障の問題から目を離してはならないことを告げている。
以下は、今日の産経新聞に、「コロナ禍後の世界の戦略研究を」と題して掲載された、元駐米大使・加藤良三氏の論文からである。
見出し以外の文中強調は私。
世界中がコロナ禍の渦中で忘れてならないことがある。
他のどの国も、皆日本と同じ考え方をするとはかぎらないことだ。
コロナ克服と国の経済維持双方の両立を図ることは、固より国の最重要の責務である。
一方、情け容赦のない国際社会の現実は、国の行政を預かる責任者・関係者が、国防・安全保障の問題から目を離してはならないことを告げている。
尖閣での中国動向を米国把握
例えば、尖閣あるいは東シナ海をめぐる中国の動向は、今も攻勢的であり、アメリカはこれに対して「きちんと見ているぞ」という警告を発している。
大国というものは、多分日本と違って、脳、胃、財布などが複数あって、「あれはあれ、これはこれ」の分別ができるのであろう。
「火事場泥棒は反則!」とか「待った!」とか叫ぶのは、スポーツや趣味の世界ではありえても、「国際法」が17世紀以来随分進化したとはいえ、依然未成熟で、「法の支配!」と言っても、「腕力優先」のプレーヤーは聞く耳持たず、罰則も緩い現実の国際社会の中では、この種のアピールは有効でない。
今、コロナ禍に見舞われて、「グローバル化」していたはずの世界は、突如、「国境」の持つ意味を再認識せざるを得ないことになった。
どの国も、国内の火の手を抑えるのに懸命で、他を顧みる余裕がない。
「相互依存」の行き過ぎへの「反省」、それを超えて「揺り戻し」が来そうな情勢だ。
卑近な例でも、マスク、人工呼吸器等医療機器の奪い合いが既に見られ、食糧輸出規制、サプライチェーンの見直しなども進むだろう。
かくして生ずる経済の不振が、国際政治を規定する局面になりつつある。
各国で「排外主義」や「強権」への傾斜が見られることになるだろう。
「敵味方識別能力」身に付け
日本が世界の諸国と付き合っていく上で、彼らの「公正と信義」を信頼するよりは、各国の「能力」「意図」「行動パターン」をよく見極めることが重要だということが、改めて実感される。
換言すれば、日本はこういう時代にふさわしい鋭敏な「敵味方識別能力」を身に付けるべきである。
真の味方は極めて少なく、敵の数もまた限られていよう。
中間の国々の中から、いざという際、こちら側につく「友邦」を、説得のプロセスを通じてできるだけ増やしておく努力が、一層必要性を増して来る。
そして困難なことであろうが、コロナ禍後に来る世界を想定して、今から具体的な戦略をじっくり研究することは、本来極めて重要だ。
第二次大戦の際、アメリカは「真珠湾」の数ヵ月後の1942年春、遅くても夏には、対日占領政策の研究を開始したとされる。
文脈が違うが、アメリカのスピード感を示す一例がある。
チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官が中心となって、対アフガニスタン、イラク、対イラン軍事・政治戦略の検討が開始されたのは、9・11の後、あまり日を置かずしてのことだったと、信頼すべきアメリカの友人から聞いた。
その戦略が結局成功だったかというと、そうではなかったという評価だと、彼らは述べたが。
今現在、ホワイトハウスでは、クシュナー上級顧問主宰の、この先6ヵ月を見込んでの経済対策検討チームが作業中といわれるが、これだと選挙対策の一環ということになる。
他に政府レベルで、ポスト・コロナの本格的な戦略検討会議の類いが行われているとの話は、筆者はまだ耳にしたことがないが、実際はどうなのだろう?
ちなみに、冷戦期には、ジョージ・ケナンのXペーパーに象徴される、英知を集めた強力な対ソ連戦略研究が行われていたことはよく知られている。
コロナ禍が炙り出したものはいろいろある。
戦後一貫して難局に当たって巨大な指導力を発揮してきたアメリカは、「アメリカ・ファースト」志向になっており、近々それが修正される可能性は大きくない。
欧州統合は、強いボディー・ブローを受けて苦しんでいる。
「多数国間主義」、マルチラテラリズム、の象徴である国連の、特に安保面での存在感は希薄で、その傘下の国際機関にしても、WHOなどは基本的クレディビリティを問われる始末である。
日本の自立度高める好機に
中国は、宣伝戦を別にすれば、この難局に当たって世界を牽引する「意思」「能力」のいずれも欠いているし、何よりその行動の「独善性」の故に、世界の「信認」が得られていない。
ただ、今後その国力・経済力が強くなろうと弱まろうと、中国の対外政策は、2030年およびその先に向けて「攻撃的」、アグレッシブ、なものであり続けるだろう、決して「穏健化」、ビナイン、することはないだろうというのが、日米の専門家の多くの分析だと思う。
日本も難局にあることは間違いない。
しかし、何度も言うが、今が日本にとって、日米同盟をベースに自立度を高める好機だとも言える。
日本人だけが日本を見ているわけではない。
アジア、太平洋、インド洋、その他世界の多くの目が、日本の行動にそそがれていることもまた、念頭に置くべきだろう。
かとう りょうぞう。