腰抜け外務省はジャマもんだな――拉致、尖閣、竹島をめぐる不作為と主権国家の責任

月刊誌『WiLL』に掲載された石原慎太郎と亀井静香の連載対談から、北朝鮮による拉致問題、尖閣諸島、竹島、海上保安庁、外務省の不作為、事なかれ主義外交の問題を取り上げる。
横田滋氏の死去を受け、拉致被害者救出を進展させられなかった政府と外務省の責任を問い、日本の領土、国民の命、国家主権を守る政治の必要性を訴えた章。


2020年7月20日
本稿は、月刊誌『WiLL』に掲載された石原慎太郎と亀井静香による連載対談特集「腰抜け外務省はジャマもんだな」から引用した章である。
2020年6月5日に横田滋氏が死去したことを受け、北朝鮮による日本人拉致問題を長年進展させられなかった政府と外務省の責任が論じられている。
対談はさらに、尖閣諸島周辺での中国公船による領海侵入、日本漁船への追尾、尖閣灯台の海図記載を妨げたとされる外務省の対応、韓国による竹島の実効支配、海上保安庁をめぐる過去の事例へと展開する。
拉致、領土、海洋安全保障という国家の根幹に関わる問題において、国民の命と主権よりも外交上の摩擦回避を優先する姿勢を批判し、政治家が国家を守る意思を示す必要性を訴えた記録である。
【本章を象徴する引用】
「当初、北朝鮮をかばって拉致を否定していたメディアや社会党は論外だが、政府側にいながら何もしてこなかった外務省の罪も重い。」
2020-07-20
当初、北朝鮮をかばって拉致を否定していたメディアや社会党は論外だが、政府側にいながら何もしてこなかった外務省の罪も重い。

以下は、腰抜け外務省はジャマもんだな、と題して月刊誌WiLLに掲載された、石原慎太郎と亀井静香の連載対談特集からである。
亀井 国会議員を巻き込んで尖閣を実効支配する団体を立ち上げよう。
石原 面白い。コロナ自粛で落ち込んだ世間を騒がせようじやないか。
外務省の不作為
石原 横田滋さんが亡くなった。気の毒でならない。亀井 一九七七年、当時十三歳だった横田めぐみさんが北朝鮮に拉致された。あれから四十三年、滋さんがどれほど苦悩の日々を過ごしたか。我々に知る由はないが、「お疲れ様でした」と言うはかないね。
石原 近年は体調が芳しくなく、講演会や街頭演説で妻の早紀江さんがマイクを握る姿をよく目にした。亡くなるのが早すぎる。いや、政府の対応が遅すぎるんだ。当初、北朝鮮をかばって拉致を否定していたメディアや社会党は論外だが、政府側にいながら何もしてこなかった外務省の罪も重い。
亀井 拉致問題解決は、何よりも優先すべき課題だ。にもかかわらず、小泉純一郎政権下で五人の拉致被害者が帰国して以降、何ら進展が見られない。
石原 なぜ、帰国者を五人に絞ってしまったんだろうか。当時、水面下で交渉を進めていたのは外務省アジア大洋州局長だった田中均だが、北朝鮮寄りの言動が目立った。小泉が経済制裁を強めようとすると、なぜか田中がストップをかけていたらしい。
亀井 田中は、せっかく取り返した五人を、また北朝鮮に戻そうとしていた。さすがに、官房副長官だったシンゾーが防いだが。
石原 怒った右翼が、田中の自宅ガレージに爆発物を仕掛けたこともあったな。
亀井 北朝鮮の「ミスターX」と蜜にやり合っていた田中は、交渉の全貌を明らかにしていない。果たして、今の外務省に北とのパイプは残っているんだろうか。
石原 さあね。金正日から金正恩にリーダーが代わって、みんな粛清された可能性がある。
亀井 ならば、いっそのこと力ずくで拉致被害者を奪還できないかな。
石原 政治家にも官僚にも、そんな根性があるヤツはいないよ。憲法九条さえなければ、「返さなかったら戦争だ」と脅すこともできるんだが。
その場しのぎ外交のツケ
亀井 五月上旬、尖閣諸島周辺に中国船「海警」がやってきて、領海侵犯を繰り返した挙句、日本漁船を三日間も追い回した。中国外務省の報道官は、「日本の漁船が中国の海で違法操業している」と言い放った。完全にナメられている。
石原 石垣島でダイビングを楽しんだついでに遠出して、何度か尖閣まで行ったことがある。海流に乗って大きな回遊魚がやってくるし、地つきの魚も大型が多い。尖閣は格好の漁場だ。
亀井 機関銃を積んだ中国船に追いかけられて、漁師は怖かっただろうな。その様子は、海上保安庁がビデオに収めているはず。シンゾーは思い切って公開すればいい。
石原 事なかれ主義の外務省が嫌がるだろうな。
亀井 中国に忖度しているようじゃ、民主党政権と同じになってしまうぞ。拉致にしても領土にしても、今になって、その場しのぎ外交のツケが回ってきた。苦しむのは被害者家族や、現場にいる漁業者や海保職員だ。都知事時代、石原さんは尖閣を買うために寄付金を集めていた。でも、政府が横ヤリを入れて、国が購入することになった。宙ぶらりんになってしまった寄付金は今どうなっているんだ?
石原 十八億、そのまま残っているよ。条例で「国による尖閣諸島の活用に関する取り組みのための資金」と決めて、尖閣以外には使えないようにしておいた。献金に添えられたいくつかの手紙を思い出すと、今でも胸が熱くなる。東北の貧しい家庭からの手紙には、「私たちはごく貧しい三人家族ですが、一人一万円ずつ献金して、お国のために役に立てればと思いました」と記されていた。
亀井 政治家や官僚に朗読させてやりたい。
理由にならない理由
石原。尖閣諸島に最初に灯台をつくらせたのは僕だ。青嵐会や企業家の協力を得て、関西にある大学の冒険
部の学生たちに頼んで尖閣に上陸させ、ポールに傘と裸電球をつけてバッテリーにつなぐだけの、徂末な灯台らしきものを建てた。尖閣諸島が日本の領土だということを、ささやかな手段でもせめて周りに知らしめたいと思ったんだ。唆険な島の地形のせいで作業は手
間取り、食料が不足してきた学生たちを応援するために、飛行機をとばして空から米袋を投下したこともあった。作業が終わりポールの先の電球に灯が点った夜、強風が島を襲った。灯を頼りに島陰で風待ちしていた漁師がいて、翌朝、学生たちに「灯台のおかげて助かった」と叫んで手を振ってくれたそうな。学生たちは、「あんな感動はありませんでした。改めて国家と民族というものについて感じさせられました」と嬉しそうに報告してくれたよ。
亀井 苦労した甲斐があったわけだ。
石原 その後、同じ志を持った政治団体「日本青年社」が申し出てくれ、尖閣に本格的な灯台を建設してくれた。最初は嫌がっていた沖縄の第十一管区海保も、次第に危機に感じて陰に陽に彼らをサポートしてくれた。灯台完成の知らせを聞いて、僕は運輸省に連絡し、「正式な灯台として不備な点があるなら指摘してほしい。それらが補填されたら正式な灯台として海図に記載する手続きを取ってほしい」と申し込んだ。水路部の提案を受けて、日本青年社はさらに手を加え、最終的に正規の灯台として認可してくれた。しかし、思いがけない横ヤリが入った。外務省が海図への記載に反対してきたんだ。理由を聞けば、「時期尚早」と。
霞が関に付き合う必要はない
亀井 意昧がわからない。そこに建っている灯台を、地図に載せるだけのことじゃないか。
石原 中国に気兼ねしたんだ。それ以外、理由なんてない。
亀井 運輸省も情けない。外務省の言うことなんて、聞き流しておけばいいのに。
石原 官僚出身の亀ちゃんなら知っているだろうが、役所ごとに暗黙の”等級”がある。格下の運輸省は格上の外務省にタテつくことができない。当時の外務省は、政府を動かすほどの権勢を誇っていた。
亀井 霞が関のくだらない権力闘争に、国民が付き合う必要はないよ。
石原 灯台が海図に記載されていないと、荒天の際に近くを航行する船舶にとって危険極まりない。夜間にレースをやってきたヨット乗りの僕は、身に染みてわかる。でも、外務省の役人にとっては、国民の命より外交で軋轢を生まない方が重要なんだろう。
亀井 あいつら、「国民の命なんて知ったことじゃない」と思ってやがる。
石原 二〇〇三年、息子の仲晃が国土交通大臣に就任した。僕は父親として強く言明し、あの灯台を正式に認可するように申し込んだ。仲晃も発奮してくれて、ようやく海図に記載されるようになった。いま灯台には、「日本国がこれを建設した」と明記した金属のプレートが貼られているという。ただ、岩陰に蹈れて見えにくい場所じゃなく、誰もが目視できる頂上に灯台を建てなきやダメだ。
亀井 日本海が、文字通り「日本の海」になっていない。中国と韓国と北朝鮮が日本海で大きな顔をしている。竹島は韓国に実効支配されているが、自衛隊を出して、不法占拠している連中を追い出せばいいんだ。石原 竹島は要塞化しているから、戦争を覚悟しなきやダメだぞ。
亀井 望むところだ。領土を守るために戦って何が悪い!
官僚が利用する「官邸の見解」
石原 運輸大臣時代、海上保安庁長官が「年に一度、恒例の竹島視察をしてきます」と言ってきた。何をするのか聞くと、「見てくるだけです。ある距離まで行くと警告の大砲が飛んできて、さらに近づくと間近に次の弾丸が飛来する。だから、その時点で引き返してき竃す」と。主務大臣として、わが国の領土の実態を正確に把握し、国民に知らせる義務がある。「オレも同乗させてくれ」と言って、行く手はずになった。
ところが突然、臨時閣議が開かれることになって足止めされてしまった。きっと誰かが、私を竹島に近づかせないようにしたんだろう。
亀井 撃沈されてもいいから、乗り込んでほしかったな(笑)。
石原 外務省の腰抜けに呆れたエピソードはいくらでもある。これまた運輸大臣時代のある日、海上保安庁の救難部長から耳を疑うような報告を受けた。房総半島の沖合で、関東管区の巡視船が数発の弾丸によって大きな水柱が立ったのを目撃したという。しかも水柱の近くで、何隻か日本の小型漁船が航行していた。 その後、実弾を発射した犯人は東京湾から出てきたアメリカの駆逐艦タワーズ号たったことが判明。彼らは面倒くさがって規定に従わず、保安庁の巡視船をターゲットに見立てて実弾の発射訓練をしていた。当然、保安庁は米軍の無法に抗議すべく外務省に報告したが、「そんなことは沖縄ではよくあることで、いちいち問題にする必要はない。それが官邸の見解である」と一蹴されたそうな。
亀井 それで、救難部長が石原さんのところに泣きついてきたのか。
石原 ああ。僕は即座に、「”官邸の意向”の官邸とは、総理大臣か官房長官のことを意味する。どちらの発言か質してこい。もしそれが竹下登総理なら、私は辞表を出して記者会見を開く。小渕恵三官房長官なら、官邸に赴いて小渕を罵倒し罷免を求める」と言い渡した。念のため小渕に電話すると、事件について何も知らされていなかった。外務大臣の宇野宗佑は激怒して、配下の木っ端役人を叱りつけた。腰抜けの外務省が、尖閣や竹島、そして拉致問題で政治家をジャマしてきたんだ。
原点は「忠臣蔵」にあり
亀井 自民党の有志が結成した「日本の未来を考える勉強会」や「日本の尊厳と国益を護る会」には、活きのいい若手議員がいるぞ。政府に消費減税を求めたり、習近平の国賓来日の中止を求めたりしている。なかなか面白い連中だ。あいつらを巻き込んで、尖閣を実効支配する団体を立ち上げよう。
石原 面白い。ちょうど、コロナ自粛で退屈していたんだ。つまらない世の中を騒がせようじゃないか。棚
ざらしになっている寄付金の十八億円を活動資金に充てることができる。
亀井 石原さんを盟主にして僕が顧問になって、城内実や平沢勝栄みたいな自民党の”はぐれ者”を集めるんだ。国民民主党代表の玉木雄一郎も安全保障観はマトモだから、賛同してくれるだろう。シンゾー一強の今こそ、新しい風を吹かせる必要がある。田中角栄の金権政治を打倒するため、石原さんは青嵐会をつくった。第二の青嵐会をつくろうじゃないか。
石原 青嵐会のメンバーは個性があった。
亀井 中川一郎さん、渡辺美智雄さんに浜田幸一さん……傍から見て、普通の人間の集まりだとは思っていなかったよ。火つけ強盗、詐欺師、泥棒、ヤクザな連中ばかりだ(笑)。
石原 多士済々と言ってくれ。青嵐会の原点は”暗黙の約束の履行劇”ともいえる「忠臣蔵」にある。江戸城の松之廊下で堪忍袋の緒が切れて刃傷に及び、即刻隔離され一方的に切腹させられ憤死した主君。その無念に報いるため、大石内蔵助以下四十七人の侍が互いに言葉を交わすことなく胸と胸で計り合った。亡き主君と心の絆で交わした男同士の仇討ちの約束を、身を隠し名前も変え、長年の末に果たし切る。これほど痛快で胸に響く劇はめったにない。単なる復讐劇じゃなく、男たちが主君との黙約を果たすために肉親を偽り、恋人までも騙し、己の夢も捨てて約束を果たした。元禄のふやけた時代に、誠の矢を放って公儀の額を射抜いた約束の履行は、大きな津波のように当時の人々の心を動かしたんだ。
この稿続く。

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