中国はなぜ「ヒトからヒトへの感染」を隠したのか――門田隆将が追及した武漢のウイルスサンプル破壊・移管命令と情報隠蔽の本質
門田隆将は月刊誌『WiLL』の連載コラムで、中国当局が隠そうとしたのは武漢肺炎の発生そのものではなく、早期に確認されていたヒトからヒトへの感染と、研究・実験施設に存在したウイルスサンプルではなかったかと論じた。
李文亮、艾芬両医師への処分、CCTVによる海鮮市場の映像報道、国家衛生健康委員会によるサンプルの破壊・移管命令をたどり、中国当局の情報隠蔽の本質を追及する。
2020-07-21
本稿は、2020年7月21日に発信した章である。
当時発売された月刊誌『WiLL』に掲載された、門田隆将の連載コラム「中国はなぜ“ヒトヒト感染”を隠したのか」を紹介した。
門田隆将は、中国当局が新型コロナウイルス感染症の発生そのものを全面的に隠していたのではなく、初期段階ですでに把握していたとされる「ヒトからヒトへの感染」と、武漢の研究・検査施設などに存在していたウイルスサンプルへ世界の関心が向かうことを避けようとしたのではないかと論じた。
論考では、武漢市中心医院の李文亮医師と艾芬医師が、2019年12月30日に医師仲間へ謎の肺炎に関する情報を伝えた後、公安当局や病院内の共産党規律検査委員会から呼び出しと処分を受けた経緯が取り上げられている。
その一方、中国中央電視台は2020年1月3日、医師たちの行為を「違法」として報じると同時に、謎の肺炎が発生していること自体を全国へ伝え、武漢華南海鮮卸売市場が発生源であるとの印象を強く与えた。
同じ1月3日、中国国家衛生健康委員会は、武漢病毒研究所や武漢市疾病予防管理センターなどに対し、ウイルスサンプルの破壊または専門機関への移管を命じたとされる。
門田隆将は、肺炎の発生を公表しながら、ヒトからヒトへの感染とウイルスサンプルの存在へ関心が向かうことを避けることこそ、中国当局による隠蔽工作の中心だったと主張した。
以下に、2020年7月21日に発信した日本語原文を、一字一句変更せずに掲載する。
日本語原文
2020-07-21
ウイルスが実験・研究している場所から漏れていることに目を向けられれば、”自然発生”に比べて補償等で大きなリスクを負ううえ「生物兵器ではなかったのか」等の
以下は本日発売された月刊誌WILLに、中国はなぜ“ヒトヒト感染”を隠したのか、と題して掲載された門田隆将の連載コラムからである。
中国が隠蔽してしていたのは何だったのか。
多くの日本人は、中国が武漢肺炎そのものの発生を隠していたのではないかと考えている。
だが事実は違う。
中国の隠蔽の対象がどこにあり、何から目を逸らせようとしたのか。そのことを多くの人に知って欲しい。
7月10日、米FOXニュースで新証言が紹介された。渡米した中国の感染症専門家が新型コロナウイルス流行初期に「ヒトからヒト」への感染が起きていたが、中国当局により、「これが隠蔽された」というものだ。
証言者は、香港大学公共衛生学院の感染症専門家の閻麗夢氏である。彼女はこう語った。「12月31日、中国当局はすでにヒトからヒトヘの感染を把握していたのです。しかも、感染は非常に深刻でした。しかし、当局は誰にもこのことを公表することを許しませんでした」
私は、「ああ、やっと本当のことが報道され始めた」と思った。
6月に上梓した拙著『疫病2020』には、このあたりの事情を詳述させてもらったが、いまだに誤解が多いので改めて書かせていただきたい。
武漢市中心医院に勤める李文亮、艾芬という二人の医師が謎の肺炎の情報を医師仲間で共有すべくチャットで発信したのは、昨年12月30日のことだった。
患者からの感染を防ぐために医療最前線で情報を共有するのは当然である。
だが、このことで李文亮医師は武漢市公安局武昌分局から、又芬医師は病院内にある共産党規律検査委員会から共に呼び出しを受け、厳しい指弾を受けることになる。
「法に従い、あなたがインターネット上で事実に反する言論を発表した違法問題に対し、警告する」
これで李は訓戒処分、又は譴責処分を受けたのだ。
これは謎の肺炎の発生そのものを隠蔽したと思われがちだ。
だが、李医師が訓戒処分を受けた当日の今年1月3日、CCTV(中国中央電視台)はこの事実をただちに全国放送している。
李医師の名前こそ伏せたものの、医師たちの”違法行為”を報じ、同時に肺炎の発生を全国民に知らせたのだ。
このニュースは、武漢海鮮卸売市場の映像をくり返し流し、ここが「発生源であること」を強く印象づけるものだった。
これは何を意味しているだろうか。
ヒントは放送当日、中国国家衛生健康委員会が武漢市にある武漢病毒研究所と武漢市疾病予防管理センターなどに対し、ウィルスサンプルの「破壊と移管を命じていた」という事実にある。
のちに中国のニュースサイト『財新網』がスッパ抜き、ポンペオ米国務長官が反応し、記者会見でも厳しい糾弾をする”もと”になるものだ。
ウィルスサンプルの「破壊」と「移管」を国家衛生健康委員会が命じたのなら、中国はその存在自体を「隠したかった」ことになる。
ポンベオ氏の指摘に対して当の国家衛生健康委員会は記者会見でこう語った。
「たしかに1月3日に関連文書を出したが、これは原因不明の病原体による二次災害を防ぐためであり、サンプルの保存条件に満たない施設では、その場で破壊するか、専門組織に移すべきであると考えたからだ」
この弁明こそ急所である。
つまりウイルスサンプルがこの時点で「存在」し、二次災害を防ぐために何らかの措置を命じたことを当局が「認めた」からだ。
李文亮や艾芬といった武漢市中心医院の医師たちへの呼び出しと処分、そしてCCTVの報道、さらには、ウイルスサンプルの国家衛生健康委員会による破壊・移管命令ー当局はこれらを今年1月3日までに集中的に行っていた。
のちに判明するように、武漢の海鮮市場には、コロナウィルスの宿主のコウモリなど売られていなかった。
だが当局はCCTVを通じてここが感染源であることを印象づけるのに成功する。
ウイルスが実験・研究している場所から漏れていることに目を向けられれば、”自然発生”に比べて補償等で大きなリスクを負ううえ「生物兵器ではなかったのか」等の痛くもないハラを探られる。
さらには、ヒトからヒトヘの感染が明らかになれば、拡大を防ぐためにWHOから職員が乗り込んでくるなど大騒動となるのは必至だった。
まだ十分な対応もとっていない段階でそういう大ごとは避けたかったに違いない。
そして当局は隠蔽工作を完遂させた。
だが、そのツケの大きさは改めて記すまでもない。
7月13日、世界の感染者は遂に1300万人を超え、死者は56万人となった。
鎮静化の兆しは未だ見えない。
無念の思いを呑み込んで死んでいった人々のためにも、中国の犯罪の「本質」を究明しなければならないのである。