慰安婦問題の解決を阻んだもの――挺対協による元慰安婦への圧力と、朝日新聞・韓国社会の「反日」の構造
『月刊正論』2014年12月号の前川惠司「慰安婦問題解決を阻んだ朝日と韓国」を再録。アジア女性基金元理事・下村満子さんの証言を軸に、挺対協と元慰安婦との関係、アジア女性基金への反対、朝日新聞、韓国社会における反日とナショナリズムの構造を検証する。
2020-08-19
以下は、『月刊正論』2014年12月号に掲載された、前川惠司(ジャーナリスト、元朝日新聞ソウル特派員)による「慰安婦問題解決を阻んだ朝日と韓国」である。
この論考で重要なのは、慰安婦問題をめぐる日本政府と韓国側との対立だけではなく、元慰安婦本人たちと、その「支援」を掲げた挺対協との関係に焦点を当てていることである。
とりわけ、アジア女性基金の元理事である下村満子さんが語った次の言葉は、この問題の本質を突いている。
「日本が挺対協の人たちに妥協する必要性は絶対にない。あの人たちは、(元慰安婦の)おばあさんたちを踏みにじっています。おばあさんたちは、あの人たちにセカンドレイプされているようなもの。それをコントロールできない韓国政府は何とだらしないのか」
*この下村満子さんの言葉が全く正しかった事を、今、韓国内で遅ればせながら証明されている事は衆知の事実*
慰安婦問題解決を阻んだ朝日と韓国
『月刊正論』2014年12月号
前川惠司(ジャーナリスト、元朝日新聞ソウル特派員)
支援団体に踏みにじられた元慰安婦たち
「日本が挺対協の人たちに妥協する必要性は絶対にない。あの人たちは、(元慰安婦の)おばあさんたちを踏みにじっています。おばあさんたちは、あの人たちにセカンドレイプされているようなもの。それをコントロールできない韓国政府は何とだらしないのか」
*この下村満子さんの言葉が全く正しかった事を、今、韓国内で遅ればせながら証明されている事は衆知の事実*
朝日新聞の「誤報取り消し」と「謝罪」でも、日韓間で慰安婦問題解決の兆しは見えない。どうしてか。
慰安婦問題の解決のために日本が官民一体で1995年に設立し、2007年に解散した「女性のためのアジア平和国民基金」(アジア女性基金)の元理事、下村満子さんに尋ねると、冒頭のように厳しく韓国の対応ぶりを責める言葉が返ってきた。
下村さんが言う“挺対協”とは、「韓国挺身隊問題対策協議会」の略称だ。慰安婦問題の解決を日本に迫る韓国の市民団体の一つで、女性人権団体を母体に結成された。
「日本政府は法的責任を認め、国家賠償し、責任者を処罰すべきだ」と主張し、ソウルの日本大使館前に慰安婦の像を建て、この像を囲むように毎週の「水曜デモ」をしていることで知られる。アジア女性基金による元慰安婦への「償い金」の支払いや首相の手紙による解決には強く反発。97年1月に、アジア女性基金が韓国で初めて、韓国の元慰安婦7人に、当時の橋本首相のお詫びの手紙とともに各500万円の「償い金」の目録を渡した直後には、「アジア女性基金の金を受け取ることは、ふたたび汚れた金で身を売ることだ」と、元慰安婦のおばあさんたちを締め上げて受け取り拒否を強要した。
下村さんはこうも語る。
「挺対協のメンバーと来日した慰安婦のおばあさんが、『宿泊所に閉じ込められ、外に出るなと言われて嫌になる』と電話をかけてきたこともあります。おばあさんたちは、内心で挺対協を恨んでいましたが、挺対協が怖いから、公の場に出てこいと言われれば出て行き、デモをしろと言われればデモをした。気の毒な弱者でした」
右も左も昔から反日
これでは元慰安婦のおばあさんたちを抑圧しているのは挺対協ではないかと言われても仕方ないだろう。いったい、どのような組織か。
挺対協の尹貞玉元共同代表は、韓国一の名門女子大、梨花女子大出身で、同大教授という経歴の持ち主だ。金大中元大統領の夫人とは同窓だ。「挺対協のほかの主要メンバーも、大学教授や弁護士、学者、金持ちなどのインテリ層ばかり」と関係者は口をそろえる。韓国社会の女性エリート層が主導する団体なのだ。
挺対協や元朝日新聞編集委員の松井やよりさんらが中心となった1992年、ソウルでの「アジア女性会議」や、「昭和天皇有罪」を宣言した2000年、東京での「女性国際戦犯法廷」の開催に協力した「日本基督教婦人矯風会」の高橋喜久江さんは、尹貞玉元共同代表とは80年代、韓国のキーセン観光などアジアの売買春反対運動で知り合ったと話している。このつながりのなかで、尹貞玉元共同代表は、韓国民主化以後に慰安婦問題で日韓共闘を始めたが、資料などは日本側にほぼ頼っていたと言われる。
ところで、キーセン観光は、当時は世界の最貧国だった韓国が同胞女性の肉体でドルを稼ごうとした、朴正煕政権の国策的な事業だった。それだけにキーセン反対運動の実際は、反日運動であり、同時に朴正煕政権打倒運動だったと見るのが正しいだろう。
65年に日韓国交正常化を実現させた朴正煕政権は、日本からの経済支援での国づくりを進める一方で、強烈な民族主義も掲げていた。娘の朴槿恵現大統領が、伊藤博文を暗殺した安重根の記念碑建立を中国に要請したことから今年1月、記念館が暗殺現場のハルビン駅にでき、日本社会の反韓感情をさらに刺激したが、ソウルの「安重根義士記念館」は70年に朴正煕政権の肝いりで開設されている。ハルビンの記念館は朴槿恵大統領にしてみれば、父の気持ちを継いだだけということだっただろう。
余談だが、日本で人気の青磁や白磁を、民族文化の継承として復活させたのも朴正煕大統領で、ソウル郊外の利川に陶芸村をつくった。もっとも、この陶芸再興の狙いには、キーセン観光に来た日本人男性客に売りつける土産品が何もない中で、日本人が好きな陶磁器に目をつけたこともあったそうだ。なかなか逞しい商才だ。さらに脱線するが、韓国の陶芸専門家から、昔と同じ土が韓国内でほとんど見つからないため、かつての味わいがうまく再現できないという話を聞いた。
韓国の「反日の殿堂」と呼ばれる天安市の独立記念館は、独立運動家などが日本の官憲に残酷な取り調べを受けている蝋人形の展示や、悲鳴の擬音などで日本でも知られている。ここも全斗煥軍事独裁政権時代に建設されている。慰安婦問題に火がついた92年にソウルの日本人学校中等部の生徒が見学に出かけた様子がテレビ朝日で放映された。このときの後日談を、当時の校長から聞いたことがある。日本に留学中の韓国人青年から「韓国の子どもたちに自国の正しい歴史を教えず、植民地時代が残酷であったとだけ強調し、いたずらに反日感情を掻き立て、日本を憎むことが憂国だと勘違いさせるところが、独立記念館だと思っている。あそこは軍事独裁政権が、自らの非道を誤魔化すために、国民に募金させて作った施設だ」という手紙が届いたというのだ。
日本では一般的に、朴正煕や全斗煥の反共政権は親日で、進歩派左翼政権は反日だと感じている人たちが多いようだが、どちらにも己の正当化の手段としての反日の論理が内包されていることが分かるエピソードだ。
反日と韓国ナショナリズムは一体化している。それは、「いつかまた、日本が侵略してくる」という恐怖心が韓国人の深層心理のなかに潜んでいるからだろう。解放直後に、「米国の奴らを信じず、ソ連の奴らにだまされるな。日本の奴らが立ち上がるから、朝鮮人は気をつけろ」という言葉が流行ったことは、元東亜日報記者の李鍾珏さんが、「韓国いまどき世相史」(亜紀書房)で書いている通りだ。