杉村楚人冠の戒め――新聞が「頭から腐る」とき、報じないこともまた罪悪である

2017-6-25
以下は前章の続きである。
杉村楚人冠の戒め
渡部
トップがおかしいと組織全体がおかしくなる。
朝日新聞にいた有名なジャーナリスト杉村楚人冠は、大正4年に書いた『最近新聞紙学』のなかで、世間が「この新聞はおかしい」と思い始めたときは、新聞社は会社ぐるみでおかしくなっていると言っています。
記者が賄賂をもらったり、買収されたりして書いた記事は、上の人は必ず「これはおかしい」とすぐわかるはずだ。
にもかかわらず、紙面におかしい記事が載るようなら、それは頭から腐っている、という趣旨のことを書いているんです。
1971年に林彪が毛沢東に粛清されたことは、海外の新聞や雑誌を読めば自明のことでした。
にもかかわらず、朝日だけは「林彪は生きている」と言い張っていた。
日本の週刊誌が、林彪がクーデターに失敗して殺されたと報じ始めても、朝日新聞は一行もそれに触れませんでした。
さすがに世間も「この新聞はおかしい」と思った。
もちろん、朝日が中国から賄賂を受け取ったり、買収されたりしたわけではないでしょう。
しかし、楚人冠はこうも言っています。
「新聞記者が材料を集め、又は紙面を整うる時に、利害の打算をしたり、親疎の別を立つることは、最も戒むべき点である。故意に不実の事を捏造するのも罪悪であるが、公けにすべき事実を差し押えて公けにせぬのも罪悪たることは、相同じい」
長谷川
大正時代に書かれたものなのに、まさに現在のことを言い当てていますね。
渡部
それで私は、『諸君!』1973年11月号の巻頭論文で、林彪事件を報じない朝日新聞を、この楚人冠の文章を引いて真正面から批判しました。
これが朝日新聞との「40年戦争」の初戦で(笑)、英語学の本ばかり書いていた私が論壇に出るきっかけになりました。
それはともかく、初期の新聞というのは、「天井種」といって、記者が畳の上にひっくり返って天井をにらみながら書けるテーマや議論でした。
それを、楚人冠は、「何々すべし」「お前たちにはわかるまいが、おれはこう考えている」という口調で一段下の者に説いて聞かせるような天井種の新聞の時代は終わったと縷々述べているんです。
しかし、長谷川さんがご指摘したあたりは、少なくとも日本の悪口については天井種で書いてもいいようですな。
長谷川
先ほど触れた北畠清泰氏のコラムは、まさに「天井種」で書いている。
杉村楚人冠に叱られるでしょう(笑)。
この稿続く。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


上の計算式の答えを入力してください