感染者数ではなく死亡者数を見る――日本の医療体制、国際宣伝戦、そして「コロナ後の世界」
月刊誌『Hanadaセレクション』掲載の松川るい参議院議員による論文「国際宣伝戦 今こそ反転攻勢の時」から、日本の新型コロナウイルス対策、死亡者数を重視すべきとの視点、国民皆保険と医療アクセス、日本人の衛生意識、中国依存からのサプライチェーン再編、ICT化・働き方改革など「コロナ後の世界」をめぐる論考を紹介する。
本稿は2020年8月10日に発表したものである。
以下に引用するのは、当時発売中だった月刊誌『Hanadaセレクション』掲載の松川るい参議院議員による論文「国際宣伝戦 今こそ反転攻勢の時」の一節である。
したがって、感染率、死亡率、英国の医療アクセスなどについて記された数字や評価は、2020年当時の論考中の認識として読む必要がある。
とりわけ「高齢者、基礎疾患のある方について感染者の15%以上が死亡するというデータもある」との部分は、すべての感染者に共通する致死率を意味するものではなく、当時示されていた特定のデータについての記述である。
また、「イギリスでは国民保険で取れるアポは1~2か月後ということも多々ある」との記述も、英国NHS全体を一律に表す統計的記述ではなく、松川氏による当時の比較・評価として引用する。
その上で改めて読むと、本稿で重要なのは個々の初期データだけではない。
「感染者数だけではなく死亡者数・重症者数を見るべきだ」「日本の医療体制と衛生意識を国際社会に正しく発信すべきだ」「中国依存のサプライチェーンを見直すべきだ」「危機をICT化や働き方改革の契機にすべきだ」という問題提起である。
以下、原文の論旨に忠実に掲載する。
【本文】
2020年8月10日
以下は、「国際宣伝戦 今こそ反転攻勢の時」と題して、当時発売中の月刊誌『Hanadaセレクション』に掲載された、参議院議員・松川るい氏の論文からである。
前文省略。
【感染者よりも死亡者数】
全国一律休校措置についていろいろな批判もあるが、我々日本国民の認識を全国レベルで一変させる、ショック療法的効果をもたらしたという意味で、その効果は大きかった。
無論、そのことは裏返せば、これにより経済には大変な打撃になることは間違いない。
しかし、一時的に経済にダメージがあっても、早期に収拾モードに入ることが、国民の健康にとっても、経済にとっても、日本の国際的評価にとっても、結果的にはプラスだ。
政府にお願いしたいのは、重要なのは感染者数よりも死亡者数、特に対人口比であるという宣伝戦をWHOに対して行うべきだ、ということである。
このウイルスは感染力が極めて高い。
元気な若者などは、感染していてもまったく無症状で、さらに感染を広めてしまうという面もある。
他方で、高齢者、基礎疾患のある方にとっては非常に危険なウイルスであり、当時、感染者のうち15%以上が死亡するというデータもある、と松川氏は記していた。
日本は医療水準が高いので、感染しても死亡に至らず治癒させることは十分可能である。
実際、日本ではクルーズ船も含めれば、感染者の4割以上、600人以上の方がすでに回復し、退院している。
回復率も極めて高い。
この点も、世界に大いに喧伝してもらいたい点である。
イタリアをはじめ欧州での死亡率が想定以上に高いのは、人種による遺伝的な違いなど未知の点もあるかもしれないが、医療アクセスに課題があることも一因ではないか。
医療技術という点では、先進国間でそう大きな違いはない。
しかし日本は、国民皆保険制度の下で、地域医療の水準とアクセスの容易さにおいて優れている。
それゆえに医療費が財政を圧迫しているとの批判も受けるが、それでも日本の医療制度が持つ強みは大きい。
【日本は世界のトップクラス】
松川氏は英国について、国民皆保険の下で医療費の患者負担は基本的に抑えられている一方、医療へのアクセスにはかなりの制約があるとの見方を示している。
そして、国民医療制度を利用する場合、医師への予約が1~2か月後になることもある一方、より早い診療を望む場合には私費診療という選択肢がある、と比較している。
これは松川氏による当時の英国医療についての評価である。
また、世界トップクラスとも言える日本人の清潔好きと衛生意識の高さも、本件において有利に作用している。
子供でも手洗い・うがいを当たり前にする国は、そう多くない。
私は改めて、日本の医療関係者の皆様に敬意を表したい。
日本の死亡者数が抑えられているのは、前線で戦っている医療関係者、介護関係者、自治体、その他すべての関係者の昼夜を問わない献身的な努力の賜物である。
このウイルスの感染力に完全に勝てる国は、おそらくほとんどない。
あれほど強権的な中国であっても、制圧――本当に制圧したかは疑わしいが――には時間を要した。
人権を重んじる民主主義国で、中国のような強権的措置をとることは困難である。
しかし、医療水準、医療体制、国民の衛生意識、そして統治の安定性によって、死亡者数を抑えること、重症者数を抑えることはできる。
死亡者数の抑制にどれだけ成功したかを基準とする方が、国際的評価にもつながるだろうし、実際問題として、死亡者数を抑えることこそが目標であるべきだ。
欧米を含め他地域で感染が拡大したことによって比較対象が生じ、日本がこのまま死亡者数を抑えることができれば、コロナが終息した時には、これまでの不名誉な評判を挽回し、「日本はよくやった」と評価される状況となる可能性は十分ある。
【「コロナ後の世界」はどうなるのか】
新型コロナウイルスが終息した時、ウイルス対策で危機管理能力を発揮できたかどうか、また経済的ダメージをどこまで抑えられたかによって、国家の国際的序列は大きく変わる可能性がある。
【日はまた昇るのか】
これはコロナ危機の長期化がどの程度になるかにもよるが、世界は「閉じていく」可能性がある。
ビジネスはグローバル一辺倒から地域経済へ。
サプライチェーンは中国依存から多元化・国内回帰へ。
世界レベルで見れば、コロナ危機が長引いた場合、世界経済のブロック化とサプライチェーンの組み換えが大きく進む可能性がある。
その組み換えは、中国陣営と米国陣営、そしてその双方をまたぐものとなるだろう。
当時、中国は「ウイルス制圧に成功した」と盛んに宣伝していた。
しかし、ウイルスには体制も主義主張も国境も関係ない。
欧米の民主主義国にも感染は広がった。
もし最終的に「感染症も強権国家の方が民主主義国よりうまく処理でき、経済回復も早かった」という評価が世界に定着するならば、それは世界秩序にも大きな影響を及ぼす。
逆に、ここで日本が死亡者数と重症者数を抑え、経済的ダメージをコントロールし、終息後の経済回復にも成功すれば、日本の国際的地位がそれまで以上に高まることもあり得る。
それは十分可能なことである。
幸運の女神には前髪しかない。
この機に日本の様々な悪弊を糺せばよい。
ICT化、働き方改革、マイナンバーカードなど、「平時」ではなかなか進まない様々な改革を進める好機と捉えるべきだ。
今回のコロナ危機は、行き過ぎたグローバリズムに対する逆襲のようでもある。
米中の覇権争い――新冷戦。
「力による政治」、パワー・ポリティクスの跋扈。
そして世界中の人の移動を凍結させたコロナ危機。
このような流動的で歴史的な転換点は、滅多にない。
日本の改革は、いま、やるしかない。
いまが「反転攻勢」の時なのだから。
この稿、続く。